遺伝子組み換えブタ、海の生物を救う?
カナダ政府当局はこのほど、尿と糞に含まれるリンが通常のブタの65%以下という遺伝子組み換えブタの生産を条件付きで認可したと発表した。
動物の排泄物に含まれるリンは、湖、川、川の河口付近で“水の華”と呼ばれる藻の異常繁殖が発生する一因となることがある。このような藻の大量発生によって水中の酸素が急速に奪われ、魚類などの水生生物が生きられない広大な酸欠海域、いわゆる“デッドゾーン”ができる。そのため、水中の生き物にとってこのブタの認可は朗報となるかもしれない。
“エンバイロピッグ(Enviropig)”と名付けられたこの遺伝子組み換えブタは先月、管理された研究環境下での飼育をカナダ環境省から認可され、1つの高いハードルを越えることとなった。
カナダのオンタリオ州にあるゲルフ大学の環境科学者でこのプロジェクトの広報担当者のスティーブ・リス氏によると、バイオ技術によって新たに生み出されたこのブタがアメリカとカナダで食用と商業的利用の試験に合格するまでには、まだ何年もかかるかもしれないという。しかし研究チームは、最終的には認可されるものと楽観視している。リス氏は「今後認可される遺伝子組み換え食品の中でも最も重要なものとなるはずだ。私たちは新しい領域に足を踏み入れたのだ」と胸を張る。
すべての生物と同様、ブタは餌からリンを摂取しなければならない。リンは、骨、歯、細胞壁の形成のほか、さまざまな細胞や組織が正常に機能するためにも重要な役割を果たす。
アメリカではブタの餌として主にトウモロコシが使われ、カナダではオオムギなどの穀物が与えられている。しかし、これらの植物で自然に生成される種類のリンは、フィターゼという酵素がなければ消化されない。しかし、ブタはこの酵素を持っていない。
そこで、ほとんどの養豚業者はこの酵素をサプリメントを通して与えているのだが、体外から摂取したフィターゼは、ブタの体内でフィターゼが生成された場合ほどリンを分解する力が強くない。そのため、かなりの量のリンがブタの排泄物として体外に出され、これが水源に流れ込む。
エンバイロピッグは体内でフィターゼを作り出すよう遺伝子操作されているため、この酵素をサプリメントとして与える必要がない。
研究チームは、リンを分解する力を持つ自然界の酵素を10年以上に渡って探し求め、ついに大腸菌のゲノムの中にそれを発見した。遺伝子操作が哺乳動物でも確実に行われるように、大腸菌の遺伝子と、マウスから抽出した“DNAプロモーター”とを混合した。DNAプロモーターとは、DNAの特定の領域(この場合は大腸菌の遺伝子)の複製を促進するDNAの領域である。次にこの混合物を、受精したブタの胚に顕微鏡で注射した。
初期の実験で、大腸菌の酵素がブタのゲノムに組み込まれただけでなく、そのブタの子孫にまで受け継がれる可能性があることが明らかになった。ゲルフ大学の微生物学者でプロジェクトを率いるセシル・フォルスバーグ氏は、「今育てているのは8世代目のブタで、すべての世代にこの酵素が伝達されている。しかも、どの世代も遺伝子の構成は変化していないことがわかっている」と話す。
この遺伝子を組み込んだことで、エンバイロピッグが餌から吸収するリンの量が増え、その結果使われずに排泄される量が減ることになる。
ゲルフ大学の研究チームによれば、エンバイロピッグは環境対策になるだけでなく、養豚業の経営問題にもプラスとなるかもしれない。サプリメントを与えるコストが不要になることに加え、畜産現場から窒素やリンを流出させることを禁じるアメリカの “ゼロ排出”ルールを順守しやすくなる可能性がある。
現在、養豚業者のほとんどはこの法律に従うために、ブタの排泄物を穴や下水処理施設に集めて肥料としてリサイクルできるようになるまで保管しており、大きな経済的負担を強いられている。プロジェクトの広報担当者リス氏は、「家畜の飼育コストは年々増加しており、国際市場で勝負しなければならない生産者の重荷となっている」と業者を代弁する。
エンバイロピッグの開発が一区切りついた今、遺伝子操作された動物がアメリカ食品医薬品局(FDA)の安全性試験に合格するかどうかに養豚業者の注目が集まると指摘するのは、全米豚肉委員会の科学技術担当副委員長ポール・サンドバーグ氏である。エンバイロピッグが業界に利益をもたらすかどうかを見極めるには費用便益分析も欠かせないとしながらも、「畜産業者は、自分たちの競争力を高めることができる技術ならどんなものでも歓迎する」と話す。
アメリカでは、食用として認可された遺伝子組み換え動物は今のところない。しかしFDAは2008年に、遺伝子操作された動物から作られた初の人間用の医薬品を認可したことを発表した。これは、ヤギの乳から抽出されたアトリンという抗凝血剤で、アンチトロンビン欠損症という珍しい病気の患者の体内で血栓ができるのを予防するために利用されている。
by imasu6
| 2010-04-02 00:45
| 新種
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